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【300字SS】望郷の夜

 ほんの時折、具体的には月に1度、彼女はひとりで空を見上げる。気が済むまでは何を話しかけようとも応えは返ってこない(ただし後で倍になって返ってくる)。だから彼女の夫はその間、黙って隣に座るのだ。身重の身体に響かぬよう、後で罵られようと袿を1枚肩にかけてやるのは必要なことのはず。

「……まだいたの」

 気が済んだらしくそんな辛辣な声がかけられる。

「うん、もちろん。ずっと君の傍にいると誓ったとおりに」

 それよりも、届かぬ連絡は済んだのかと聞けば鋭い視線が振り返り、ただ一言。

「本当に趣味の悪い」

 心の内が聞こえるわけでもないのに。盗み聞きを咎めるような妻の視線に、彼女の夫はただただ優しく笑うのであった。

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