鎮魂花

どおん、と、心臓をも打ち抜くような力強い音が響き、夜の闇を吹き消すほどの光が辺りを昼間のように照らす。綺麗ですね、と声をかけようとして隣へ顔を向けた岩瀬の口は、けれど言葉を発せなかった。
祈るように強く強く組まれた手を額に押し付け、目を瞑ったまま口を固く結んだまま。花火なんて目にも入れたくないような、そんな姿にも見えるだろうが、岩瀬は黙って、神通の代わりにとでも言うように、再び光の花が咲き乱れる空を見上げる。
『あのっさんはなんでも抱え込みすぎながいぜ』
いつだか庄川がからかうように、けれど哀しそうな瞳で言っていたのを思い出す。
『あの病気かて、神通にゃどうしようもないことやったがに……むしろ神通自身が辛かったやろに。まして空襲のこちゃ、俺らにゃなんもしようもなかったことながにな……抱え込みすぎなんぜ』
岩瀬には当時の記憶はあまりない。あの頃の岩瀬は今の岩瀬とは全く違う、神通に言わせれば「ただのロボットみたいやった」から。都市計画で新しく与えられた役割が今の岩瀬を作り上げてくれた。おかげでこうして神通や皆と仲良くなれたが、昔の記憶を共有できないこんな時、ほんの少しの歯痒さを感じる。
最後のスターマインが終わり、周囲から歓声と拍手が上がる。チカチカする瞳をそっと閉じて、岩瀬は小さく呟いた。
「来年も、神通さんと一緒に見に来たいです」
来年も。その先も。この悲しみに寄り添う覚悟は、もう出来ている。
「……気ぃ向いたらな」
 突き放すような答えは、けれど縋るような響きだったから。岩瀬はほんの少しだけ、体重を神通に傾けた。