「岩瀬は何着とったかて可愛いんやけど」
「けど?」
「……小矢部の姐さんの趣味ちゃあ男にゃわからん」
ズ、とマンゴーフラペチーノを啜りながら遠目にはしゃぐ岩瀬と小矢部を見る神通。その横で「本人にはそんなこと言われんなよ」と小さく呟きながら松川がチョコチップの入ったスコーンを齧る。
くるりと小矢部の目の前で回った後、まるで人形にするみたいに小矢部に抱きしめられていた岩瀬だったが、なんとかその腕から抜け出すと、ようやくこちらに気が付いたような顔でボリュームのあるスカートをゆっさゆさと揺らしながら転びそうな底の靴で駆けてきた。
「っ、転ばれんなよ!」
思わず鋭く叫んでしまうが、岩瀬はいつものふんわりした笑顔で、はあい、とのんびり答えて少しだけ速度を遅めた。
「小矢部の姐さんから頂いてしまったんです、けど。似合います、か?」
その姿はいつものシンプルな岩瀬のファッションとは全然違って、少女趣味の小矢部の好みが全開すぎてやっぱり神通にはよくわからないしいつもの岩瀬の方が可愛いと思うのだけれど、リボンと小花柄とフリルとレースに埋もれそうになりながら頬を少し嬉しげに染めた、その岩瀬の表情が喉の底をきつく掴むから。
「似合っとんがじゃないけ。知らんけど」
後ろめたさからか視線は合わせられないけれど、それすらいつもどおりだと受け止められてしまったのだろうか、より笑顔を深めて岩瀬はまた小矢部の方へ足取り軽く行ってしまった。
「……次のデートはあの格好で来るがじゃないけ」
「…………それは勘弁やわ」
男と女の溝は埋まらない。なんたって堤防が二人の間に続いているくらいなのだからそもそもが仕方のない話なのかもしれないけれど。