七夜・錬命の師


「なにこれ知らんぞこんな術。そもそもこれ作ったのオレだから分かるんだけどさっていうかその前にそんなおいしい変換の効果が出るような術を作った覚えは欠片もねえ。てかこれなにここの紋」
一通り今までの経緯を説明し、コートニーにかけられた術の呪文と陣、それに媒体のことも詳しく聞いたメルメの反応はこんな感じだった。息継ぎをする間もなくまくし立てられる、すこし鼻につくような少年の声がロロット・リィゼにあるオリヴィアの研究室によく響く。メルメに出会って五日目の朝、最初こそ驚くやら動揺するやら、精霊女王に会った時にはあれほど落ち着いていたエルゼリオまでがあまりに相手の凄さに言葉を失い、そばに寄ることもできずにいたけれど、今はもう同じ部屋で額を付き合わせて現代魔術と古代魔術の相違から、術の目的によって使用する解の簡単な導き出し方までを論じ合っている。
「ソリュネットのディオ紋よ。ヘルリストールの式の定着率がいいんです」
「ヘルリストールにはヒーレイクのナイロ紋かジルバトルだろが」
「ジルバトルの紋は、だって死に近いでしょう? そんなに強い力は必要がなかったし、それにこれはどうみてもジルバトルの紋じゃないんですもの」
「そう、だからナイロ紋なんじゃないか」
「多分その紋は今まで伝わってないね、聞いたことがない」
「なんてもったいないんだヒーレイクの創った紋はどれもこれもがレベルが高く使い勝手がいいのに。覚えてる限りでよけりゃあ全部教えるぜ。まずナイロ紋がこう――」
日がな一日がこんな有様なものだから、魔術の基本にかじりついたばかりのコートニーにはさっぱりだ。それでも目の前に次から次と羊皮紙に描かれる様々の紋様はどれもがとても美しかったことは理解できた。
「あとは流行り廃りの問題だろうな。今も定着率がどうのって言ってたけどそんなのがいいの悪いのってのはその時々の気の流れだとかってのが関係してるから、その辺のバランスが狂ったりだとかあとは調整する意味でアレンジ加えられてるとこがほんの少しの性質の違いで現れる現象が変わってくんだわ。例えば……ほれ」
メルメはそう言って新しい羊皮紙に円を重ねて三つ描き、真ん中に三角形を一つ描いた。簡単に一言だけ「火よ」と呟くと、羊皮紙はぽっと小さな音を立てて一瞬だけ燃え上がった。
「え、こんな簡単に……!」
オリヴィアが思わず声を上げる。自分が普段使っている火を発生させる術はもっと手が込んでいる。それでも律や解に従って、一番簡単に組み立てなおしたのに、それでも労力はこの三倍は軽くいる。
「変に魔術を勉強などといって学んだやつはごちゃごちゃとややこしいことをしたがるからなあ。こんなもんちゃちゃっと最低限あれば十分なだけ揃えりゃ発動するぜ」
それにしたってな、と改めてオリヴィアが描いた陣を見る。これもまた相当に簡単な図形で作られているが、それもそのはずで悪戯というか暇つぶしの手慰みにメルメが考えて描いた陣だからで、それどころか彼曰く「こんなにややこしくしなくたって発動するのによ」とのことで実際にこの魔術を起動させると(ちなみに媒体は青い硝子玉一つだった)目の前にペンギンくらいの大きさのメダカが一匹、宙を泳いですぐに消えた。
「幻を見せる魔術その二十一、メダカの舞」
きゃは、と少女の様に笑う少年の首を絞めたくなったのはリュミナス。
「これのどこをどうしたらコートニーをこんな目に合わせる術式になるんですか!」
「だーかーらーオレもそれを知りたいんですけどってことで詳しくはそこの陽の色の娘に聞け。ちなみに原理だけ説明すればヘルリストールの式によって物質変換が起こり、その物質の決定と固定はエルルリンの解で媒体そのものと定めて――」
もういい、とその止まりそうにない口を片手で塞ぎ、オリヴィアに視線をやる。しかしオリヴィアは困ったように首を傾げてぽつりぽつりと少しずつ思い出しながら術理論を口に出す。
「見たところ、メインがヘルリストールの式だったのはすぐに分ったのだけれど、紋が知っているものと微妙に違っていて、だから一番近くて定着率のいいソリュネットを持って来たの。そういえばソリュネットは動物の性質を持っているから多分媒体にそういった性質付けをするようなびっくり箱みたいな術かなって思って、下に解を兼ねたダリスエルの紋を持ってきて、子犬の性質を付加させたの。ダリスエルが一番簡単だから。で、多分問題なのが東西の対として書いたブレイブルックの解だと思うの。エルルリンの解では宝石一つに影響を及ぼすほどの力が望めないと思って少し強めのブレイブルックに差し替えたのだけど」
「そこで変換対象が媒体に加えてそこの犬のまで含めてしまったってとこか。よかったな比較の術があればこれほど簡単に解けるじゃねえかお前頭いいな。術の組み立て方もセンスがいいからお前もきっと伝説に名が残るぜ。どうだ、魂だけ残して後世に自分の名前を聞くってのも面白いぞお前もやらねえか」
「考えておきます、それよりも理論上の原因は把握できましたけど対抗できる術を考えなければいけません。それに関して師のお考えをいただけませんか」
一見自分よりも年下の少年にへりくだるのもなんだか癪だが、事実この数日間で披露された知識の数々はオリヴィアを軽く凌ぎ、たとえメルメ本人でないとしても十分な助けであることは間違いがない。だから部屋の主である自分が座るはずの居心地のいい特注の椅子も、南国に多く住むビーフェ族の姿をした少年に明け渡している。そうさなあ、と少し考えてメルメは妙に細長い指をくるりとステッキの様に回すと、それまで話に入れずに部屋の隅でぼうっとしていたコートニーを指差した。
「犬の。探し物を頼んでいいか」
「え、わたしですか。わたしで探せるならやりますけども」
突然の指名に驚いたものの、ようやく話の輪に入れる気がして少しだけ身を乗り出す。
「むしろお前じゃねえと探せねんじゃないかと思うぜなんたって特殊な石だからな」
特殊な石。メルメですら特殊と言うそれはどんなものなのだろうか、想像もつかない。しかもそれを自分しか探せないだなんておだてるにも程というものがあるのじゃないだろうか。
「あ、あんまり期待、しないでください。わたし、なにもできないんですから。運も、悪いですし」
「なにを言うかお前ほど星の加護があるやつも少ないぞ犬の。確かに星の巡り方はちいっとばかしおかしいがそこのひょろ長いのがそんなもの相殺できる。お前ら相性いいぞ相当。この巡り合わせは良いっていうより奇跡か偶然かのどっちかだろ。連れてけ」
もう全部がメルメの独断だ。けれど説得力があるだけの能力はすでに皆見せ付けられているので口を挟むわけにもいかない。まあリュミナスはたとえ止められたってコートニーの手伝いをしようと思っていたので丁度いいといえば丁度よかったと一人思っているのだけれども。それに相性がいいといわれては俄然張り切る。単純だとは分かっているけれど、やはり悪いよりいい方がいいに越したことはない。
「じゃあなにを探せばいいのかの具体的な指令をいただけますか、メルメ師。それほどになにか特殊な事情のある宝石なんでしょうか」
「なんだよいきなりやる気になりやがって。まあいい、石っつっても宝石って考えて探さねえ方がいいだろうがまあこの辺は先入観のない犬のが見つけやすい理由の一つだな」
「どういうこと、ですか」
なんだかあやふやな答え方にコートニーが首をかしげる。
「んー元が宝石なのは間違いねえんだが多分時間が経ちすぎててしかもお前らの話だと古代と現代にきっちり歴史が分かれてて昔の魔術の知識が全部伝わりきってねえみたいだからそういう過去のいわくが忘れ去られた状態で出回ってそのまま変に加工されてる恐れがあるっつうかそもそも元の持ち主がそれとわからんように加工してから手放したような気がすんだよなあ」
「あんたの説明はひどく回りくどくて分かりにくいんでもう少し噛み砕いてはっきり言ってください」
「なんだよ怒んなよあんまり怒りっぽいとモテねえぞ。まあいい。つまりは今目的のものはどんな形をしているかオレでもわからねえってこと。そいでついでに言うとその探し物ってのがセフィロスシリーズのビナーってのなんだが――わかるか、セフィロスシリーズ」
わかるか、と尋ねるその台詞の前に既にメルメが求めるものの規模の大きさに、リュミナスもオリヴィアもエルゼリオも、どう反応していいのか戸惑っていた。とりあえず一番強い感情は、驚きだったけれど。
「セフィロスシリーズって、本当に存在したのね」
「なんだよこれも伝説だかのレベルで忘れ去られそうになってたのかなんてこった! あんなにオレとフラムが苦労して精霊の召喚から宝石への定着だのを数十年とかけて創りあげたのに」
「え、まさかそれも貴方が創ったの」
「あーまあオレは創ったっつうかフラムの手伝いをしただけっつうかな」
「フラムってまさかフランシス……?」
「ああ、フラムの名前はちゃんと伝わってるのか。あいつもなかなかに生意気なやつだったが才能はあったから教えるのは苦じゃなかったなあ。いやまあ才能があるのは当たり前だったんだが」
魔術師四人の会話についていけない。コートニーはとりあえず、基本的な質問からすることにした。
「あの、セフィロスシリーズって、なんですか」
「なんだお前は知らねえのかえーとそうだな説明してやれ、獅子の」
オリヴィアに話を振るメルメに、自分で説明すればいいのにといいかけて、やめた。この人は話が長い。
「セフィロスシリーズというのは九つの宝石のことよ。それぞれが世界を構成する基礎思想を意味していて、全てを揃えられたら世界を創り変えることができる、なんて夢物語と一緒に語られるような代物よ。これもやっぱり歴史書には載らないような作り話みたいなものだったから、まさか実在するなんて」
「今もきちんと残ってるかは保証しかねるけどまあきっとあるだろ。フラムの加護付きなんだしそうそうなくならねえよ。たださっきも言ったがどんな形かわからねえ。セフィロスシリーズの宝石にはそれぞれ思想に対応する精霊を封じてあってその力を使うってもんなんだけどな、まあそれが宝石の力と精霊の力とが加わるから尋常じゃねえほど強いわけさ。だからフラムはその力が安易に使われないようにこっそりと世の中に出したんだろうがそのおかげで今から探そうって方が難しくなってる」
それだけ一息に説明し、メルメはコートニーに改めて向き合う。
「でもお前にならできるはずだ、犬の。探すべきはひとつでいい。セフィロスシリーズナンバスリー、精霊エロヒィムを封じた蒼き宝石サファイア名前はビナー、それを見つけて持って帰って来い。それでお前を元に戻す算段がつくはずだ」
「サファイアね。わかったわ、がんばってくる」
「はは、犬のはさすがに大人しく従順で素直だな。まああまり宝石の種類や形に囚われたりしないこと、全てはお前の頭上に輝く星が導いてくれるから大丈夫だ。お前がそれと信じたように進めばいい」
素直に頷いたコートニーの髪をくしゃりと撫でる。
「出発は明日の夜がいい。新月だから星の加護を受けるには丁度いいだろ」
露になったコートニーの額に自分のそれを軽く合わせると、おろおろとびっくりした様子の少女を笑って受け流して目を瞑る。
「スリィジアからサチュラへ、お前に星の幸運を」
そうして洗礼のキスを少し湿り始めた鼻の頭に降らせると、さあと赤い顔した小さな少女を解放した。
「お前にしか見つけられない運命だ、がんばって来い」
「は、はい。わかったりました、がんばります」
それじゃあ準備をしてきます、と部屋を出て行ったコートニーの背を見送ったまま、メルメはくすくすと小さな笑い声を漏らした。
「そう怖い顔をするなよ恵みの名を持つ青年よ。触れることすら戸惑うお前が祈りのキス程度に嫉妬するなんてまだまだだな。そんないい顔しといてまさか女の一人も経験してないなんていわねえだろな」
「そんな話は今関係ないでしょう、メルメ師」
「うはははは顔が赤いぞかーわいーいなあ。でもなあ恵みの」
じっと見つめる瞳は真剣で、思わずぞくりと聞き入りそうになってしまう。
「あれはやめておいた方がいいぜ後々面倒だ。それでもいいなら止めねえけどさ、棘の道って程度で済めばおめでたい、いいとこ死人が一人ってとこだろ」
「……どういう意味ですか」
「さあてね、その内わかるだろ。今のはただの占いみたいなもんでオレにも全部が見えるわけじゃねえ。けどあの娘にはそういう死相があるんだよ、犬の自身のかはたまた周りの誰かのかは知らんがな」
南国の民特有の明るい表情でそんなことを言われると、逆に真実のように思えてくるから不思議なものだ。しかも相手は伝説の魔術師。
「でもまあお前らの相性がいいのは確かでお前が持つ何かがあの犬のの星回りを正しく幸運が流れる方向に直せるのも事実だからな、二人の関係がどうなるかはともかくとして傍にいてやるのは互いの為になんじゃねえの」
「あんた応援してるのかしてないのかどっちなんですか」
「ははは正直どうでもいいなお前らごとき人間が一人や二人くっつこうが離れようがオレには関係ないもんね」
大人げない、と睨み付けるが、勿論それで反省するような相手ではない。肩をすくめて流される。
「まったく……本当にあんたがメルメ師かどうか時々心の底から疑うよ」
「疑うのは悪くない、考えることの基本は疑うことから。そこから真実が見えてくることも多々にある」
にやりと笑ったメルメは非難も厭味も通じない。リュミナスは溜息を一つ吐いて、やはり出発の準備をするためだろう部屋を出て行った。

そうしてコートニーとリュミナスが出て行った後の部屋にはオリヴィアとメルメ、それからエルゼリオがのこった。オリヴィアもエルゼリオも、メルメの次の指示を待つように不安そうな顔で幼い少年を見つめたまま、一言も声を発さない。からかう相手が二人ともいなくなってしまったメルメは、嫌そうにその顔を見つめ返すとやはり嫌そうに声を絞り出した。
「お前らももう少し自分の意思っつうか考えっつうかそういうの持てよな。いつまでも指示待ちだなんてそんなの十の子供でももっと自発的に動くぜ」
「そんなこと言われても、今頼りになるのは貴方だけなのだもの……」
しゅんと小さくしおらしくなったオリヴィアは、今や陽色の髪もくすんで見える。エルゼリオはとえいば、なにを言うでもなく伝えようとするでもなくただじっとメルメを見つめるばかり。コートニーやリュミナスは無駄な口こそたたかないが、必要なことはきちんと聞き、分からなければ問うだけの言葉を持っていた分可愛らしいと思えたが、この二人は聞かれれば答えるがそれ以外の反応が薄くてメルメはずっと苛々していたのだが、しばらくこの三人でいなければいかなくなったことに――自分が言い出したとはいえ、今ようやく思い至り、思わず声を荒げてしまう。
「ええいプライドの高いやつはいっぺん失敗すると途端に兎みたいに大人しくなっちまうからくだらない。オレだって万能じゃねえんだ、今の魔術に関しては千年前からこっちの分はわかんねえことばっかりだから上等の術師と組んでやんなきゃ犬のを元に戻すことも叶いそうにねえっつのに、頼りのやつがこんな腑抜けじゃ使い物になんねえ。これじゃあいくらビナーが手に入ったところでなんにもならんじゃねえか」
口汚く吐き出したメルメに、はっとしたようにオリヴィアが困った顔で「ごめんなさい」と謝った。
「でも、やっぱり私が間違っていたことには変わりはないし、結局私なんて学校の授業レベルで褒められていたに過ぎないことに気付いたら、なんだか今までやってきたことが無駄みたいな気がして……」
「あーあーあーもう! わかったじゃあもうお前どっか行け魔術なんてやめちまえ。お前に期待しようとしたオレが馬鹿だった。間違いなんて誰にだってあって人はその間違いを二度と犯さないように気をつけて生きるもので挽回できる間違いなんてのは何度だって挽回すればいいって思ってるのは実はオレだけかそーかそーか。阿呆らしくて笑えもしねえ。憂い顔の美少女は好きだし女を慰めるもの嫌いじゃねえけどお前みたいにうじうじいじいじしてるヤツは大嫌いだその性根から真っ二つに折ってやりてえな!」
「そんな……っ」
「そんなことないからまたがんばれよなんて甘い言葉で慰めてもらいたいならそこの銀のにベッドの上でしてもらえ。でもそんな言葉で取り戻した自信をオレの前に持ってくるなよそんなもんまたぽっきり壊れるに決まってんだ、本当の自信なんて自分で取り戻さねえといつまでたってもハリボテのままだぜ」
メルメの言葉は容赦がない。涙すら浮かんできたオリヴィアに、呼吸をさせる暇も与えず攻撃しつづける。無意識に助けを求めるように視線を泳がせたオリヴィアは、表情を変えずにじっと自分を見つめるエルゼリオを見つけ、とうとう涙を零してしまった。エルゼリオは彼女を助けるでもなくただじっと、無表情に見つめている。
「エ、ル……」
か細い声で名前を呼ぶと、ふっと目が閉じられる。優しい灰色が、見えなくなる。
「私、……私はどうすればいいの」
誰に聞くでもなく呟いた言葉は、けれど目の前の少年に拾われた。
「そんなもん決まってんじゃねえか。自分の尻拭いは自分でしろよ。こんな落書きを残しちまったのはオレの失敗だがそこから術を別理論で組み立てたのはお前の失敗なんだから一緒に後始末しようぜ。それくらいできるだろう」
さっきまでの強い口調ではなく、優しくあやす様な声と共に頬に温もりが与えられる。細く節の目立つ指に涙を拭われ、オリヴィアはますます涙を流す。
「やるわ、私がんばるわ、だからお願い、お願い……」
見捨てないで。声には出せなかったその言葉は、メルメにもエルゼリオにも伝えたい切実な思い。
「――だってさ。お姫さまが泣いてるのにいいのか放っておいて」
メルメが振り返ると、ようやくエルゼリオは優しい微笑みを見せた。
「僕は甘やかしてばかりですから。貴方のような強い方に背を押してもらうことも必要と思ったのです。ちゃんと、自分の足で立てそうでしょう」
そう言って横から二人の間に割り込むように傍により、オリヴィアをそっと抱きしめる。オリヴィアはぼろぼろと涙を流しながらエルゼリオの名前を何度も呼んで、必死にしがみつく様に抱き返す。
「やだねえ頭が切れるやつは。お前似てんよ、フラムに」
「ふふ、それは褒め言葉として受け取ってよいのでしょうか、師」
「オレ個人の意思としては褒めてねえんだけどな」
まあでもこれでようやく前に進めるな、と呟いてメルメは樫の木の机に向かう。机の上には何冊もの魔術書と何枚もの羊皮紙が隙間なく散らばっている。そしれらを無造作に机の隅に押しやりながら、誰にも聞こえないような小さな声でそっと呟いた。
「サチュラの加護、か……あってないようなもんだなあ」
数時間後の夜空に輝くであろう凶星の名前に、明日の夜旅立つ二人の無事をそっと祈った。