11「偶然は、必然よりも強い奇跡だよ」


「どうしてリュミナスがついて来るの」
「コートニー1人じゃ不安だし」
「言っときますけど、アタシ森にいる時は大人達にだって負けることは少なかったのよ。決して弱くは、ないんだわ」
「セフィロスシリーズのこと何も知らないだろう?」
「知らないのはリュミナスも一緒じゃない」
「ていうか迷うでしょコニー」
「地図貰ったし、メルメさんとの通信手段もあるから大丈夫だもん」
取り付くシマが無い。
「……怒ってる?」
「なんでアタシがリュミナスを怒る必要があるのよ」
「……なんとなく」
てくてくと。てくてくとロロット・リィゼを出てから10分ずっとこんな調子。
月の見えない新月の夜は星の光を頼りに歩くしかないけれど、コートニーは迷わず転ぶことも無く(舗装されていない道を歩いているのもあるけれど)真っ直ぐ進む。
「……どこにいくつもりなのか、当てはあるのかい?」
「ううん」
「じゃあどこに向かっているの」
「なんとなく、こっちかなって思って」
「なんとなくって……」
「だってメルメさんが言ったもの。アタシの信じるように動けばいいって。だからこっちだと思うの、こっちに行くの」
迷うことの無いのは足取りだけでなくその瞳も。
そんなコートニーの横顔を見て、リュミナスはふっと頬が緩む。
「じゃあ、それでいいんだろうね。俺はついていくよ」
「だから何でリュミナスが一緒に来るのって」
心底不思議そうに見上げて尋ねるコートニーに、少しだけからかうように笑うとその問いには答えず。
「出会えたのがコニーでよかったな俺」
「……人の質問に答えてください」
「ヴィアは君ほどじゃないけれど各地に俺が追いかけても迷わないように印を置いてきたらしいんだ」
「…………」
「その中で出会えたのが君でよかったと、本当に思うよ」
「偶然って、不思議よね」
「知らないのかいコートニー」
「何を?」
「偶然は、必然よりも強い奇跡だよ」
真っ直ぐに。見つめる瞳がぶつかる。
「そしてだから俺は君を必要としているんだ」
「……よく、わからないです」
「分からなくても受け止めてよ。これが答えなんだから」
くすくすと笑って「さあ」とコートニーを急かす。
「どこへ行こうかお姫様」
「お、お姫さまってっ…!」
ぴょこんと。耳。
「あー久しぶりに見たかも耳」
「だっ! そりゃ一ヶ月も会わなかったしっ!」
「いやーそのちょっと前から少なくなってたよね会った頃より」
「……それは、だから、慣れ…ていうか…」
「俺てっきりときめきが減ってるのかなーとかなりがっくりと来てたんだけど」
ぴょこりと耳が立つ。
もしその時尻尾を見たならば、尻尾が激しく揺れているのが見えただろう。
「がっくりって何、て、いうか! ときめきって!」
「えーだってドキドキした時になるでしょ耳。結構俺が触った時とか近付いた時耳生えてたからちょこーっと期待してたんだけど」
本当は、「ちょこっと」ではなく「とっても」。
人から好意をもたれるというのは嬉しいもの。
それが自分も少なからず好意を持っていれば尚更。
「それとも俺の勘違いなのか寂しいなあ」
がっくりと肩を落とすポーズをするリュミナスのマントをひっしと掴む手があった。
言わずもがな、犬の耳が生えたままのコートニー。
「……何?」
「あ、う、と、あの、……期待って、どういう、ことよ」
「言葉の通りだよ」
「……それは、アタシも、期待して、いい、こと……?」
「さあ、どうだろうね」
夜の闇にリュミナスの微笑みはその意味を汲み取りづらい。
コートニーは少し頬を赤く膨らませてずんずんと歩き出した。
「あらら。また怒らせちゃったかな」
呟くリュミナスに、コートニーの言葉が飛ぶ。
「ほら、行くなら行くんだからね! …リュミ」
闇夜でも分かるほどの赤い顔。
対してリュミナスは「参ったなあ」とほんの少しだけ、星の光程度では分からないくらいほんの少し。
頬が、赤らむ。

2人がそれから運命の急展開を迎えるのはその数ヵ月後。
ライクッグという名の教会街での、こと。