誘い文句

干からびそうな暑さの中、環水公園の噴水広場では幼い子供達が裸同然の姿で水遊びに興じている。歓喜の声に混じり聞こえるチャイムの音と同時に放出量を変える噴水を見ながら、少し離れたベンチに座る岩瀬は暑さを感じさせない声で「賑やかですね」と隣の神通に声をかけた。
返事の代わりに岩瀬の耳に届いたのは、ズ、とストローがカップの底を攫う音。これで本日三杯目のキャラメルフラペチーノが空になった。
「……あっついがに、ようあんだけはしゃいどんな」
不機嫌そうに言い捨てるが、これが神通のいつも通りなので岩瀬は微笑みを崩さない。もう慣れたものだ。
「暑いから、じゃないですか? 暑い時にする水遊びって楽しいです。わたし、子供達がああやって遊んでるの見ると、嬉しくなります」
「……ほけ」
ズズズ、と未練がましくストローをくわえていた神通だが、橋の上に松川の姿を認めると「ところで」と枯れた声をこぼす。
「明日の夜ちゃ、……あいとっけ」
「明日の、夜、ですか?」
「ん」
顎に人差し指を当てて空を見る。わざとらしいほどの仕草がいっそ岩瀬の魅力だなとぼんやり見ていた神通だが、同時に松川が戻ってくる前にこの会話を終わらせたかった。
「あっ」
小さな声が、隣であがる。
「なんけ。なんか用でもあったがけ」
ふるふるとお下げ髪が揺れる。
「い、いえ、ありません! だいじょぶです!」
「ほんなら明日……五時くらいでよかろうか。ここまで迎えに来るちゃ」
松川は丁度階段でも降りている頃だろうか。間に合った。
「……楽しみにしてます」
「なぁん、……」
楽しみにすることでもないがやけど。その言葉は、けれど確かに嬉しそうな顔の岩瀬には言えなかった。せっかく話を終わらせたはずなのに、キャラメルフラペチーノを三つ抱えて戻って来た松川に、しつこい詮索を受けるくらいには嬉しそうだったから。仕方ない。

七月三十一日。夏の盛りの昼下がり。