home > 文 > 富山河川擬人化 > 富山河川擬人化掌編集・1
本日の岩瀬浜、快晴。秋に入って人気も疎ら。
「も、どうしてゴミ、棄てて行くかなー」
ぷんすかと怒りながら両手にゴミを拾い抱える少女が一人。
また一つ、足元の缶を拾おうとしゃがんだ瞬間、
「あ」「わ」
とん、とすれ違おうとした人影にぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
「なぁん」
相手は一言だけ言い放って、また砂浜に足跡を付ける。
「もー助けてやられよー。じゃまなかったけ?」
はい、とぶつかった拍子に腕からこぼれ落ちたペットボトルを拾い上げたのは、少女よりほんの少し背が高いくらいの少年。
「岩瀬はいい子やね」
にっこり笑って褒められて。 ほんの少し泣きそうになった。
とん、と背中を軽く押された。
「きゃ!」
少女がその勢いで階段から落ちそうに――なった寸前。少し寸足らずな長袖から伸びた細長い手が、少女の腕を掴んだ。
「そんなにびっくりせんでも……」
むしろこっちが驚いた、と背の高い青年は、表情ひとつ変えずに言い放つ。
「神通さん酷いです、あたし、落っこちるかと思って、怖かったんですからね!」
少女が怒ったように少し声を荒げると、神通と呼ばれた青年は、ほんの少しだけ眉を動かして「悪ィ」と小さく呟いた。ちょっこしじゃれとったつもりやったっちゃね、と後ろで松川が笑って。
それで、この件はおしまい。
しゃきん、と鋏の音がした。
「何して……」
聞こうとした、その肩を引かれる。振り返ると、カンカン帽を目深に被り、着流し姿の長身の青年。
「あのっさんは、今までもこれからも、ずっとあんなんや。えらい目にあったししゃあないんやけどな」
触れんといてあげっぜ。な、と庄川は静かに語る。
しゃきん。切り落ちたそれは、古い写真。
白黒のフレームの中、硬い表情で写る人々。
「神通の中で消えた、いのちの姿や。」
岩瀬の知らない、覚えていない、彼の辛く哀しく、悔しい、過去。
「消したても消せん。一番はがやしいがは神通自身やぜ」