home > 文 > 300字SS, 富山河川擬人化 > 【300字SS】散らない花火
光の粒は掌に握り込めそうに小さく見えるが、当然そんな筈はなく。チラチラと明滅しながら降り注ぐ炎の間をすり抜け、またひとつ、どおんと大きな花が咲く。
「綺麗ですね」
「ん」
花火を見て綺麗だと言う。それはいつものことだけれど、返事らしい返事が返ってきたのは記憶にある内では初めてのこと。
いつもは八月一日ですもんね、言いかけて、やめた。思い出させることはない。
花火に照らされる神通の横顔をじっと見ていると「なにけ」とこちらを振り返る。
「いえ、……なんでもないです」
「なんけそれ」
表情の細かなところは暗くてわからない。けれど、散り落ちる灯りが彼の頬を赤く照らしているのは、やはり、新鮮な光景だった。